
資金繰りを正常化するためにどうする?
売上は伸びているのに現金が減る、仕入や人件費の支払い週にいつもヒヤヒヤする——その背景には、損益と現金のタイムラグ、構造的なコスト設計、そしてオペレーション上の“見えないムダ”が潜んでいます。
資金繰り悪化の全体像:どこで現金が失われる?
資金繰り=現金の流れのマネジメントです。損益計算書が黒字でも、現金は「売掛」「在庫」「前払」「返済」に吸い込まれます。下図は利益と現金のズレを俯瞰したイメージです。

資金繰りが悪化する主な原因7つ
① 売掛金の回収遅延・回収条件が弱い
売上は計上済みでも、入金は翌月・翌々月。延滞・再請求・不明点による差戻しが積み重なると、現金不足の主因になります。
- 締め・検収基準が曖昧で請求が遅い
- 与信限度や延滞時の停止条項がない
- 支払い手段が銀行振込のみで滞りやすい
② 在庫の滞留・回転鈍化
在庫は“現金の塊”。SKU過多、需要予測の甘さ、過剰仕入で現金が棚に眠ります。
③ 支払サイトが短く、入金サイトが長い(サイトのミスマッチ)
仕入・外注・人件費は前倒しで出金、売掛入金は後ろ倒し。成長局面ほどギャップが拡大します。
④ 設備投資・一時金の集中
投資支出や保証金、前払費用などの大口出金が月次CFを圧迫。短期資金で長期投資を賄うと慢性的な圧迫要因に。
⑤ 借入返済・リースの返済負担が過大
元金返済は損益に出ない“現金流出”。複数借入の短期返済が重なると、健全な営業CFでも吸われます。
⑥ 税金・社会保険料・賞与などの季節性
6月・12月・期末などに資金の“山”が形成。計画がないと一気に残高が減少します。
⑦ 管理の不備(見える化不足・請求漏れ・重複支払)
請求漏れ、未承認コスト、サブスクの放置など“見えない出血”が資金を蝕みます。
原因別:症状と一次対策の早見表
| 原因 | 症状 | 即効策(48〜72時間) | 恒久策 |
|---|---|---|---|
| 売掛遅延 | 入金予実の乖離 | 督促電話→確約メール→再請求 | 与信限度・停止条項・決済多様化 |
| 在庫滞留 | 仕入過多・棚卸高増 | 値引・セット販売・委託 | SKU圧縮、補充点とMOQの再設計 |
| サイト不整合 | 回収前に資金ショート | 支払分割・期日変更交渉 | 前受・中間請求・サイト標準化 |
| 投資集中 | 月次CFの大幅マイナス | 支払分散・スコープ縮小 | 長期資金化(リース/制度融資) |
| 返済過大 | 元金で現金が減る | 一時的元金据置の相談 | 借換・返済期間延長・一本化 |
| 季節性 | 税・賞与で急減 | 積立取り崩し・分納手続き | 毎月積立・支払日の分散 |
| 管理不備 | 請求漏れ・二重支払 | 請求と入金の突合、一時停止 | ワークフロー・権限・チェック表 |
可視化:13週資金繰り表で“谷と山”を捉える
世界標準の実務は、直近3か月(13週間)を週次で更新すること。まずは3週間版から始め、慣れたら13週間に拡張します。
| 週 | 期首残高 | 入金合計 | 出金合計 | 期末残高 | 注意イベント |
|---|---|---|---|---|---|
| 今週 | 2,800,000 | 1,100,000 | 1,450,000 | 2,450,000 | 家賃・外注 |
| 来週 | 2,450,000 | 2,300,000 | 1,300,000 | 3,450,000 | A社回収 |
| 再来週 | 3,450,000 | 900,000 | 1,600,000 | 2,750,000 | 税・社保 |
不足が出る週には、前受・分割・短期枠(当座貸越)で事前に“谷埋め”を設計。表のメモ欄に対策を必ず書き込みます。
平準化:出金の山を崩すオペレーション
支払サイトの延長と分散
主要仕入先には、「今月のみ45日」「50%先・50%翌月」など具体案で打診。家賃・回線・SaaSはカード払いに切替え、締日調整で月内分散。
税・社保・賞与の月次積立
専用口座で毎月積立。期月前の資金ショックを防ぎます。
借入返済の再設計(借換・一本化)
DSCR(元利返済カバー率)を1.2〜1.5以上へ改善するよう、期間延長・金利見直し・一本化で毎月返済負担を下げます。
前倒し:キャッシュインを加速する設計
前受・中間・分割請求を標準に
着手金30%/中間30%/納品40%などを契約に明記。検収条件を具体化して請求遅延の余地をなくします。
決済手段の多重化
銀行振込に加え、カード、口座振替、オンライン決済リンクを整備。“今すぐ払える手段”を提示して回収速度を上げます。
売掛の即時化(ファクタリング)
確定した売掛の現金化で橋渡し。手数料と通知有無、債権の適格性を事前に精査しましょう。
仕組み化:再発を防ぐ管理とKPI
ダッシュボードKPI(毎週更新)
- 期末現金(予測 vs 実績)
- 売掛回収予定(上位10社)
- 大口支払カレンダー(給与・家賃・税/社保・外注・広告)
- 信用枠の使用率(残高/限度額)
- 在庫回転日数(SKU別)
与信・請求・入金のワークフロー
新規取引は与信限度設定→契約ひな型で支払条件統一→検収基準の明文化→請求自動化→未入金アラート→停止条項の自動適用。
サブスク・固定費の棚卸
四半期ごとに利用率をスコア化し、未使用・低活用は解約・ダウングレード。小さな漏れを徹底的に塞ぎます。
指標で把握:運転資金と回転日数
| 指標 | 計算式 | 解釈 |
|---|---|---|
| 売掛回収日数 | 売掛金 ÷ 1日当たり売上 | 長いほど資金を食う。短縮交渉や早期割引で改善 |
| 在庫回転日数 | 在庫 ÷ 1日当たり売上原価 | 長いほど滞留。SKU圧縮・補充点見直し |
| 買掛支払日数 | 買掛金 ÷ 1日当たり仕入 | 長いほど資金に余裕。条件交渉の余地 |
運転資金 ≒ 売掛+在庫 − 買掛。この差額を縮めることが、構造的な資金改善の近道です。
ケース別:悪化パターンと改善シナリオ
ケースA:成長局面なのに常に資金が苦しい
原因:入金サイトが長く、在庫・外注の前払いが先行。
- 前受・中間請求の導入、検収をマイルストーン化
- SKU圧縮と在庫回転の改善、MOQ交渉
- 当座貸越枠の設定(平時に審査)
ケースB:税・社保・賞与が同月に集中
原因:季節性の“山”が未管理。
- 分納制度の活用、翌月以降の支払分散
- 毎月積立による平準化、支払用口座の分離
ケースC:返済が重く営業CFが吸われる
原因:短期資金で長期投資を賄っている、借入が多重化。
- 借換・一本化で返済期間を延長、金利見直し
- DSCRを1.2以上に改善する返済設計
72時間アクション:今すぐ効く改善手順
| 時間軸 | アクション | 成果物 |
|---|---|---|
| 0〜12h | 入出金の洗い出し、3週資金繰りミニ表作成 | 不足週の特定 |
| 12〜24h | 上位債権の督促、前受/中間請求の発行 | 確約メール・請求書 |
| 24〜48h | 主要仕入へ分割・期日延長を交渉、固定費の分散 | 新支払スケジュール |
| 48〜72h | 決済手段の追加、早期入金割引の提案、不要SaaS停止 | 入金前倒し・固定費削減 |
“やってはいけない”3つのNG
- 無断の支払遅延:信用毀損で条件悪化。必ず事前相談・代替案提示。
- リボ・高コスト資金の常用:短期資金は短期の谷埋め専用。投資は長期資金で。
- 根拠なき楽観計画:受注書や契約などの証憑なしの計画は通用しない。
チェックリスト:提出前/運用前の最終確認
| 項目 | 完了 | メモ |
|---|---|---|
| 13週資金繰り表(予測と実績)がある | □ | |
| 上位10社の回収予定&督促計画を作成 | □ | |
| 支払日の分散・分割・延長の交渉結果を反映 | □ | |
| 借入返済計画(DSCR≥1.2)に見直し済み | □ | |
| サブスク・固定費の棚卸を実施 | □ |
まとめ:可視化→平準化→前倒し→仕組み化
- 可視化:13週表とKPIで“谷と山”を先読み。
- 平準化:支払日の分散、返済設計の見直し、季節性の積立。
- 前倒し:前受・中間・分割請求、決済手段の多重化、早期入金割引。
- 仕組み化:与信・請求・入金のワークフロー、固定費の定期棚卸。
資金繰り悪化は“偶然”ではなく、仕組みの結果です。逆に言えば、仕組みを整えれば改善は必然。今日の一歩(3週表の作成)から始め、来週は平準化、翌月は仕組み化へ。段階的に固めれば、資金は安定し、攻めの意思決定ができる土台が整います。










